Artist's commentary
姉と妹
pixivリクエスト用イラスト
fate/stay nightより凜と桜
twitter> https://twitter.com/mikazuki_akira/status/1615324955486609409
以下恒例の自己満テキスト
(今回はオチも何もないほのぼの姉妹モノ)
桜 遅いっ! あと15分
待って姉さん 私にばかり荷物持たせないで…
ほら こっち持つから急いで!
軽く駆け足しながら横に並んだ姉さんが 大きい方のボストンバッグを取り上げる
こちらに向ける視線から めずらしくはしゃいでいるのが分かる
最近先輩とうまくいってないって愚痴っていたけど 少しは気晴らしになってたらいいな…
ここは温泉地 由布院
私達が住むところは温泉県だけあって 他にも有名な温泉がいくつもあるけれど 地元あるあるで意外に訪れない場所
思えば間桐に養子に出されることが決まった頃に家族で来たのが最後
姉さんと母さんのぎこちない作り笑いだけは覚えているけど 正直楽しかったのかどうかすらあまり覚えていない
観光客で溢れる駅前を横切りようやく改札をくぐる
電車が来るまであと10分を切っていた
はぁ…なんとか間に合いましたね 姉さん
はぁはぁ そうね
こんなことなら朝風呂はやめたほうが良かったんじゃないですか?
何いってんの! 温泉に来て朝風呂に入らないなんて それこそ意味がないわ
ただちょっと長湯しすぎたかもね
でも ここはいつかまた桜と来たいと思ってところだから…
姉さん…
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今日は福岡まで とある舞台公演を観るために姉さんと二人旅です
予定も全て姉さんが立てて
サプライズで三日前に誘われたときは本当にびっくりしました
昨日は 思い出の温泉地で一泊
昔泊まったはずの旅館だったみたいだけど記憶は殆どありませんでした
でも今回 良い上書きになった気がします
なにより 昔のことを姉さんが覚えていてくれたことが本当に嬉しかった
あ 電車が来ましたよ
特急ゆふ号
当時からある古い二両編成の赤い車両で 大分から久留米をつなぐ久大本線を経由して博多まで伸びる電車
福岡までなら北九州からが最短ではあるけど 旅行気分を味わうなら川沿いを走る景色の良いこの路線が断然良い
車内は週末とは言え乗車する人はまばら
他に有名な観光列車があるので殆どの人はそちらを利用するみたい
でもゆっくり出来てちょうどいい…
車窓から飛び込む 青 緑 赤 黄 橙 いろんな色が心地良い
思えば ただのそこにあるだけの風景を楽しむことができるなんて 少し前までは想像もできなかった
いい景色ね…
そうですね姉さん
今回は誘ってくれて本当にありがとうございます
姉さんとの二人旅なんてはじめてだし 姉妹らしい経験がいっぱい出来た気がします
でも あの旅館人気だし予約とかも大変だったんじゃないですか?
そうね…でも水くさいこと言わない
姉妹なんだから遠慮は無用よ
はい これからはそうしますね 姉さん
笑顔で向き合った一瞬 離れていた時間を取り戻せた気がした
そうだ…旅館で朝 コーヒーを頂いたんです
ポットに詰めて来たんですけど飲みませんか?
ほんと出来た妹ね
紙コップに注ぐと 湯気とともに周囲に香ばしい香りが立ち込める
通路を挟んだ隣のおばさんと目が合い 苦笑いでアイコンタクトしてしまった
有名な地元コーヒー店の豆を使ってるみたいで 宿の人がすごくおすすめしていました
でも私はあんまりコーヒー飲めないので… どうです?姉さん
ん?そ…そうね…お 美味しいわ
それに そう すごくいい香り 落ち着くわー
桜! もう一杯貰える?
目をつぶって三口程で飲みきった姉さんは
2杯目には しれっとミルクポーションとスティックシュガーを2つほど入れていた
ふふ ブラックはお互い背伸びしすぎみたいですね
いつか美味しく飲めるようになりたいな
・・・・・・
・・・・
何事もなく40分ほどすぎたころ
ドンッ ガクッ
キィーーーーーッッッ
体が浮くほど車内が急に上下に揺れ 急ブレーキのけたたましい音が鳴り響く
段々と速度が落ち そのままゆっくりと止まった
車内は呆然として静まり返っている
程なく滑舌の悪いアナウンスが流れ 車内が慌ただしくなる
よく聞き取れなかったけれど どうやらしばらく停車するとのこと
皆携帯で連絡を取り合っている
思えば九州北部豪雨から復旧して間もないというのに この路線は本当に運がないな
まぁ慌ててもしょうがないわね
動き出すまで待ちましょ
はい でも時間が心配ですね 公演に間に合えばいいんですけど
・・・・・・
期待に反して もう2時間が過ぎていた
アナウンスによればエンジントラブルか何かのようだけど
さっきの衝撃で ちょうど下を走っている国道に落石があり渋滞が発生しているみたいでした
しびれを切らした声の大きいサラリーマンが
隣の駅まで歩いていけないのか?と乗務員と口論していましたが
足場もかなり狭く危険なので このまま車内で待つようにと指示されていた
皆 手持ち無沙汰なのか車内をウロウロしだし 1両目ではずっと子供が泣いていた
一つしかないトイレには当然列ができ 中には窓から車外に向かって用を足す人までいた
その姿をみて青ざめる姉さん
どうしましょう?姉さん これじゃもう間に合いそうもありませんね…
傾いた陽を眺めながら呟く声に 無言の姉さんは
諦めたかのようにうつむいて妙にもぞもぞとしていた
?? 姉さん 大丈夫?
顔を覗き込んだ途端 一気に涙が溢れ出し
ご ごめん 桜…ごめん
わたし こんな…
あっ あっ
そのままプルプルと震え出した姉さんから もわっとしたものがたちこめた
ん ぐ…すん ん えぐ…
だ だめ さくら 見ないで…
それは座席のシートを色濃く染め ふとももを伝って進む水みちが踵まで伸びていた
ポタポタと落ちる雫が床にいくつも水たまりをつくる
自分のしたことが信じられず 動揺を隠せない姉さんはまだ震えていて どうしたら良いのかわからない様子だった
あのプライドの高い姉さんが 涙を流しながら目を覆う姿なんて想像もできませんでした
大丈夫ですよ 姉さん…
これで涙ふいて
そう言ってハンカチを手渡し
腰を浮かすように言うと 外湯めぐりに持参したバスタオルを 冷たくなった座席の上に座布団代わり敷いた
手際よくハンドタオルを取り出し床を拭く
テキパキとこなす私の姿を ただ嗚咽をこらえながら見つめる姉さんの姿は まるでおねしょして叱られた子供のようでした
姉妹に遠慮は無用 ですね?姉さん
さっきのセリフをそのまま帰すと 姉さんの顔はより一層真っ赤になっていました
うふふ…泣いてる姉さんも可愛い
大丈夫…このことは誰にも言いません
私たち二人だけの秘密です