
Artist's commentary
双頭の竜の兄王子:ユキハナマユハヒメ
二人は背中がくっついた状態でうまれ、その手足は無かった。
双子の、女のほうの子供には「裁たれた竜の頭部の祈り」で編んだ義肢はうまく定着した。
男のほうの子供には結晶を発生させる力が備わり、幽閉されたままである。
青い羽根のの天使と、雪の羽の聖母から生まれた双子の片割れ「ユキハナマユハヒメ」。
彼女は父親にマユハと呼ばれた。長い名前をつけたのは母親のほうで、大切な人の名前が編まれてある。マユハはたくましい王子のような姫に成長した。マユハは姫として、式典や祭事に積極的に取り組む一方で、城の中にじっとしていられない冒険心があった。
街のものに呆れたやんちゃ王子だといわれ可愛がられるいっぽうで、すばらしい剣術も認められていた。マユハは自信に満ち、希望に溢れていた。
マユハは何よりも父親の事を愛していたが、自分の父親であるという事と王であるということ、そしていつも眠ったまま動かない母親に付きっ切りでいることを愛していた。
マユハが王子として王であるマユを守ろうとさえ思っていた。マユはそんな強い娘にユキハの面影を見ずにはいられないが、父親として出来るだけ娘に心配をかけないようにしていた。それでもマユハはマユの弱いところを愛していた。
「お父様、僕は・・何よりもお父様を愛してるから」
「おやおや、マユハは本当に家族思いだね、弟の事も守ってやりなさい。
僕はマユハと、オトユキをきっと守るから」
マユハはマユの側にいるときは、姫の幸せに酔いしれるのだ。
マユハが愛しているものは父親だけではなかった。弟の事も、守ってやらねばと思っている。
しかし弟のことは少し怖いのだ。自分よりも強い、結晶の力を持っている。
マユハの持つ結晶の力は帯電している。
弟のもつ力は、そこにいるだけで部屋一面を結晶の鏡に変えた。サヤオトユキオウジの力は触れたものに影響をする。だから弟は部屋に監禁されている。
それはオトユキが望んだことではあったが、それは本心ではない。
自分の体が手足を生やすことを拒んだから、そのようにしたがっているだけだ。
オトユキはマユハを女として愛し始めた。外の世界と繋がるためにマユハの話を聞くのが好きだった。姉弟の間であるのに体を重ねることを強請ることもあった。マユハは弟が可愛く、哀れに思えて拒むことはない。姉は弟をベッドの上で抱く。
「マユハ・・僕たち双子だから、二つで一つだから・・」
「わかってる、僕が君を離さない、君は僕の一部だ」
王子たちが体を重ねることを、従者であるアルバトロスも、カレハも、父親であるマユも何も咎めなかった。知らないふりをして二人が好きなようにさせている。
アルバトロスだけはマユハとその事を議論することがあったが。二人の間に子供がいることを知ったときも、彼らは事実を受け入れた。寧ろ神聖視していた。マユハとオトユキの絆が子を成した頃、二人の関係が狂い始めた。
城に紛れ込んだ獣変化の娼婦をマユハが庇ったのだ。城への不法侵入は罪に問われ、娼婦は鞭を打たれているところだった。
それをマユハは自分の侍女とした。娼婦はマユハのものになることを受け入れて、側にいるようになった。
オトユキの嫉妬は歪んだ結晶のように成長していった。