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Unapproved in three days ()Artist's commentary
南西諸島での一時
新たな編成に組み込まれてから、内地の土を踏みしめた日は、いったいどれくらいだったのだろう。
教導艦寝室でふざけて談笑していた翌日、予想通りに下された指令は、遠く離れた南西諸島の泊地への転属というものだった。
一時的な転属、と言われているけれど、深海棲艦の勢力拡大が収まるまでは、私の艦隊はその海に留まり続けなければならない。そしてこちら側は西への攻勢作戦について注力しており、こっちの海には人手を寄越さないということをすぐに理解した。つまり、いつ帰れるかなんてわかったものじゃない、っていうこと。
飛ばされた泊地の海は本土の近海よりもずっと鮮やかで、うららかな陽射しが海一面を照らしだし、波が硝子細工のように煌めいては消えるの繰り返しがあちこちで見れる。
教導艦という立場であるけれど、その前に私は一人の駆逐艦。指揮がこなれた軽巡洋艦が率いる艦隊の麾下というのは、一隻の駆逐艦でいられるぶん、ずっとずっと楽であると今になって実感している。
艦隊に並んで、陽が沈むまで海を駆けて、泊地で眠る。時折はぐれのイ級やホ級と遭遇して、蹴散らして、はじめにもどる。
あまりにも穏やかで、のどかな海。掃討作戦を立てようにも、明確な敵の勢力の存在を確認すらできないのだから、実行なんてできるはずもない。
そんな何もない日が延々と続いて、ある時、私達に諸島への半舷上陸を許可するお達しが軽巡の旗艦様直々に命じられた。
幾日ぶりの久しい休暇、けれどそれは昨日までの海上警備と殆ど変わらなかった。
上陸して目の前に立ち並んだのは、活気に溢れていた筈の、物言わぬ空虚なリゾート地。人類がここ一帯の制海権を奪取したとは言え、諸手を挙げて人々が海にぽつんと浮かぶ小島に押し寄せる、なんてこと至るには、まだ遠い。
まだ海を取り戻す真っ最中で、それを果たすために私達はあらゆる海を跨いで戦い続けている。そして今一番それを頑張っているのは西の海を駆けている連中で、私は戦いに備えるために今から英気を養っているのだ。なんて、それらしいことをひとりごちながら、私は桟橋の両脇に建てられたコテージの1つへと足を踏み入れた。
民間人が利用しなくなって久しいが、艦娘達が利用するにあたってそれなりに手入れは行き届いている。休養をするには、持って来いの空間だった。私は広々としたベッドに身を投げ出すと、全身が沈み込む感触に安堵を感じながら瞳を閉じる。緩やかなさざ波の音がゆっくりと聞こえる。
ひとしきりベッドの上で寝転がったあと、ふとそうだと思い出すがまま、私は持ち運んできた荷物を漁り始めた。
取り出したのは黄色のビキニタイプの水着。内地の母港で姉妹に貰ったこと思い浮かべながら、制服を床に脱ぎ捨てて、その場で着替えてみる。
ちょっとあやしいな感じもするが、おおむねちょうど良い感じ。鏡台の前で確かめながら、私は時刻を確認する。
まだ上陸したばかりで、時間は十分過ぎるほどにある。せっかくだから、水着を着たまま海で泳いでみるのもいいかもしれない。
普段から散々海に出ているが、こういう機会は振り返れば殆どない。そうと決まれば海で泳ごう。思いっきり遊ぼう。
そう意気込んだ私はコテージの入り口を開けて、出ようとして、待ち受けていた彼女にぶつかって、コテージの中へと押し戻された。
私と同じ駆逐艦で、同じく教導艦を務める立場で、ネームシップで負けず嫌いの彼女。そういえば彼女も半舷上陸をもらっていた、何ならすぐ隣に並んで喜んでいた。すっかり忘れていた。
意気揚々と室内へと入り込んで来た彼女は喜びを隠すことなく、ぎらぎらとした瞳を真っ直ぐに私に向けて、身に着けていた水着をその場で脱ぎ捨てた。嫌な予感がした。
"か~げ~ろ~ぉ~" と私の名前を呼びながら、再び衝突する勢いで接近してくる彼女に対して私は咄嗟に両手を前に上げる。柔らかな感触が手にぶつかる。
"ここなら誰もいなくて、だれにも邪魔されない。いっちばん良いスポットを見つけるなんて、さっすが陽炎だよねぇ" なんてことを言いながら、彼女がさらに迫ってくる。意味が分からない。でもこれはやばい。長年の付き合いがそう告げている。
"いや、あの、あのさ。私、今から泳ぎにいくところなんだけど…" そう答える間も彼女はぐいぐいと密着してきて、私の言葉は尻すぼみに小さくなる。彼女の手が私の背中へと回される。ほんとうにやばい。
たまらず半歩後ろへと下がると、それに合わせて三歩も押してくる。押しすぎなのは言うまでもなかった。
"か~げろぉ~" と再度呼びかけてくる彼女はなおも私の身体を押していき、勢いに圧される私は "ちょ、いや、ちょっと、っ" などと容量の得ない言葉しか発せず、勢いのままに押され続けた結果、鈍い音を立てて足の踵がベッドの端にぶつかった。
私の右足が、彼女の左足にひっかけられる。直後、私の身体に襲いかかる浮遊感。
"あっ、これ、にげられないやつ……" そう頭の中で呟きながら、私は再びベッドに全身を沈み込まされる羽目に遭った。