Artist's commentary
雨のち晴れ
今日も人間を驚かすことが出来なかった――多々良小傘はがっくりと肩を落としながら、ねぐらへと戻っていた。
時代遅れ、と言われたことに胸が痛む。流行に乗ればいい、という考え方が理解できない。そもそも、そんな器用なら苦労などしていないのである。
憂鬱な気分を表すかのように、雨が降ってきた。
雨。傘は本来雨よけとして使われるべきものである。しかし小傘の脳裏には、使われなくなった傘たちの姿があった。
人間に一泡吹かせたいのではない。ただ、必要なときに使われたい――必要とされたいだけなのだ。
「およ?」
木陰で雨をしのいでいた小傘は、何者かの息づかいを耳にした。こっそり近づいてみると、目も開いていないような子猫がいた。
「あんたも捨てられちゃったの?」
ミーミーと鳴くばかりで、真意を計ることは出来ない。
「雨、避けてあげるね」
ゆっくりと近づいて、傘を広げる。子猫はおぼつかない足取りで小傘に近づくと、ぺろりと足を舐めた。
「あ、天気雨だ」
雨の音が遠ざかる。きっと、晴れるに違いない。
■小傘可愛いよ小傘。