Artist's commentary
カタリナ様生誕祭
井戸から汲み上げた水を畑に撒くとプリズムが煌めいて小さな虹が出来る。
そんな初夏のある日の午後。
「ふぇぇぇ、今日もあっついわねぇ。まだ6月よ?前世の今頃はシトシト雨でどんよりとした重たい雲でじったりした湿気のベールで不快で仕方ないのに、こっちの6月の雨はサラッとしてるし降水量も少なめで日光が強いから水やりしっかりしないと直ぐに野菜が萎れちゃう」
それにしても我ながら見事な畑だ。
もう本当見惚れちゃう。
あぁ、このトマト…まるでルビーみたい!こっちのピーマンはエメラルドで茄子はさしずめアメジストね。そう、この畑は私にとって宝の山なのだ。
「今晩は、この立派なトマトとキュウリを使ってもらって美味しいサラダ作ってもらおう」
トマトとキュウリを収穫していると遠くの方で私を呼ぶ声が聞こえる。
「カタリナ様ーーーーー!こんな所にいらっしゃったのですか!」
「アン、どうしたの?そんなに慌てて」
「慌てるも何も…今日は大切な日ですよ!」
「んー?なんか予定入ってたっけ?」
本気で悩んでるのにアンは物凄い呆れ顔だ。
「本当にお忘れになってるのですか?」
「ええ、今日ってなんかあったっけ」
「今日は、カタリナ様のお誕生日ですよ!!!!!」
「わぉ!」
「何ですか、そのまるで他人事の様な驚き方は…」
前世の誕生日とこの世界の誕生日がごっちゃになってたわー!そうだ、カタリナの誕生日は、今日だった。だから朝からキースがソワソワしてたのか…っ。
「夜の晩餐会とは別に今日のスケジュールとしてこれから中庭で小規模のパーティーがあります。ご友人の方々があと1時間もしないうちにご到着されますので…とにかく準備しますよ‼︎さぁ、屋敷へ!」
「ええええええ、ちょっと待って野菜の収穫を…」
「野菜は、トムさんと他のメイドに何とかしてもらいますから‼︎兎に角、時間が有りません!まずは、その泥まみれの体を洗いに行きますよ‼︎」
「あわわわわ」
こういう時のアンは有無をいわせず使用人としての仕事を遂行する。
浴室で綺麗に洗ってもらい光の速さで髪を乾かしてもらう。
「今回は皆様のたってのご希望でこの衣装を着て頂く事になっております」
「こ、此れは…」
み、見るからに此れは…
「世に言う、ウェディングドレスというやつでは…?」
「あくまでも『ウェディングドレス風』と皆様仰っておられました。なので今日は、髪は結い上げませんよ。本当の正式な『結婚式姿』は、その時になってからと皆様口々に仰っておられますから」
はぁ、成程。これは所謂、コスプレだと思えばいいわけね。
それにしてもコスプレとして着るには生地が上質過ぎるんですけれど!薔薇のフォルムが完璧すぎる…これはみんなのうち誰かがデザインしたのかな?こんな細かな仕事を指示するのはメアリ辺りなんだろうなぁ。生地はソフィアが選んでくれていそうな気がする。
そんな事を考えてる間にアンが着々と着付けをしてくれている。
「ブーケまで準備してあるなんて…本当芸が細かいわね」
ブーケのお淑やかな配色はマリアなのかな?
「さぁ、仕上がりましたよ。時間は…何とか間に合いましたね。皆様中庭でお待ちになってらっしゃいますので向かいましょう」
「ありがとう、アン!」
忙しく移動しながら2階の窓越しに中庭を見るとみんなが正装をして待ってくれていた。
みんな惚れ惚れしちゃうくらい格好いいし素敵で可愛らしい。
1階まで降りて中庭に続く扉を開けるとみんながこちらを振り向いて満開の笑顔で
「カタリナ(様)(義姉さん)、お誕生日、おめでとう(ございます)!」
と声を揃えて迎えてくれた。
「みんな、お待たせ!今日は集まってくれてありがとう!」
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カタリナ様誕生祭という事でそれっぽい読み物を書きました。
ブーケを両手で持つ様なイメージがわかなかったので畑仕事の延長線上みたいな
立ち姿にしてて、それならいっそ読み物にも畑を入れ込んでしまおうという
安直な発想から展開しております…w