Artist's commentary
#さかまた飼育日記
《さかまたと同居するってマ?》⑦
10月初旬
気分転換に二人でお出かけをすることになった。
まるで降りかかる脅威から身を守るように、僕はサンシェードをおろした。
もう夏じゃないのに、まるで遠慮が感じられない。
引きこもりにはまぶしすぎるのだ。
助手席を見るとシートベルトで押さえきれないお肉が窮屈そうにしている。
うーん、事故ったら特大スキャンダルだな…。
僕はあふれる欲望をシートベルトで抑え込んだ。
さて、どこに行こうか。
身バレの可能性を考えると映画館やテーマパークなど、人目につくところは避けたい。
こういう時はどこに行けばいいのだろう……。
デートの一度でも経験しとくべきだったかぁ……。
あまりのレパートリーのなさに自分でも驚く。
そのとき、僕の心を見透かしたように彼女が口を開いた。
「難しい顔をしてどうしたの?」
「私,君が私のことを考えてくれてるのが分かって嬉しいんだよ」
「君と一緒ならどこでも楽しめると思う!」
「普段の疲れ、リフレッシュしようね?」
こちらを覗き込みながらニコッと笑う。
とびっきりのスマイルが五臓六腑に染み渡る。
そして二人のときは一人称が私になる。
くぅ~~~!君はどこまで天使なんだ!!!
僕は彼女の言葉に後押しされ、特に何をするわけでもないが海に行くことにした。
なんとなく潮風にあたりたい気分になったのだ。
実際は火照った顔を誤魔化したかったのかもしれない。
アイドルとドライブする背徳感を味わいながら、走ること数十分。
幸いにも誰もいないビーチを見つけたので降りてみた。
どうやら知る人ぞ知るスポットだろう。
彼女は純白のワンピースに身を包み、波打ち際ではしゃいでいる。
もう10月だというのにそんなのはお構いなしといった感じだ。
そしてこのワンピース、先日頑張ってお風呂に入ったご褒美に買ってあげたものである。
それを今日着てくれるあたり、彼女が僕のことを考えてくれてる気がして堪らない。
なんだか居てもたってもいられなくなり気が付くと自分も一緒になって遊んでいた。
こんなにはっちゃけたのは子供のとき以来だな……。
大人になるにつれて無意識に縛っていた心の紐が、スルスルとほどけていくような感じがする。
一緒に楽しんでくれてありがとう。
僕はどこまでも青く透き通る空のごとく、清々しい気持ちに包まれていた。