Artist's commentary
桜の君への想いは変わらない
〜〜〜
「君は桜花賞を勝てるよ、スティル」
「あら、それは嬉しいお言葉ですね。ですがどうして今なんですの?」
スティルインラブは桜花賞を勝てる。それは紛れもない本心だ。
しかし、その時僕は彼女の隣にはいられないだろう。
今回のレース、明らかに僕のレースプランのミスだ。それを彼女の力で僅差の2着まで持ってこられたのだ。
きっと、担当は交代だ。
そう思うと足取りが重い。
...
このまま、この子と、遠くへ逃げたい。
いやいやいや、彼女にはこれから輝かしい未来が待っているんだ。それを僕が邪魔していいはずがない。
「トレーナーさんのお傍なら...どこへでもお供しますよ?」
僕の本心を見透かしているのか、彼女はそう告げて寄り添った。
その言葉で覚悟が決まった。
ダメかもしれないけど、僕はまだスティルインラブのトレーナーでいたい。この思いの丈をチーフトレーナーに伝えよう。
「なら、戻るか。トレセン学園に。」
「はい、トレーナーさん...♡」
...
トレセンに戻るとチーフトレーナーからトレーナー室に呼び出された。
「本番じゃなくて良かったな。」
チーフトレーナーは笑ってトレーナー室で待っていた。
「え?」
「本番に活かしてくれればいいよ。」
チーフトレーナーは僕の肩を叩いてそう言った。
「いいん...ですか?僕が続けても...」
「当たり前だろ。デビュー前からずっとお前が面倒見てたんだ。他に誰がいる?」
「...ありがとうございます!」
首の皮一枚つながった。
負けられない。次は絶対に...
〜〜〜
それからの僕と彼女の辿った軌跡は皆の知るところだ。
メジロラモーヌ以来史上二人目のトリプルティアラ達成。
今の僕があるのはスティルのおかげだ。
そして、彼女が結んでくれた運命の赤い糸を握り締め僕はこれから忘れ物を取りに行く。
「あらあら、どうしてそんなに遠くを見ているのですか?貴方のすぐ傍にずっといるのに。」
そう言って背後から顔を出したスティルは僕の腕に抱き着いた。
fin
参考:幸英明連載【17】歴然だった技術の差…次はないと覚悟した(URL: https://tospo-keiba.jp/miyukihideaki/29046 )
東スポで連載してたみゆぴーのコラムをベースに怪文書を書いてみました。
元記事もみんな読んでみてね。