Artist's commentary
お前と過ごした全ての時間が私にとって夏だった。
「おはよう、妹紅。
…あぁ、大丈夫今日はとても気分がいいんだ。
なんだか昔みたいに体が軽い。
縁側に行きたいんだけど、連れて行ってくれるか?
………ありがとう。
あぁ、風が気持ちいいな。
もうすぐ夏か。
ん?夏は好きだぞ。命で溢れていて、きらきらしていて、それに暑くて、妹紅みたいだ。お前にぴったりの季節だ。
…何だそんな顔して、命が溢れるって表現が気にくわないのか?
でもそう思うんだから、しょうがないだろう。
お前は凍てつく冬よりも、実る秋や、生まれる春もあうけれど、命がきらめく夏が一番似合うよ。
きらきらしていて情熱的だからな。
私はどうだ?
……ふふ、お前はこういう問答は苦手だものな。
すまないすまない怒らないでくれ。バカにしてるんじゃない。
お前はそんな比喩を使わずとも本質を理解するタイプだからな。
私は教師だったからどうしてもこういう口上になってしまうんだ。
…?何が言いたいか?
………そうだな、ほら、私の皮膚はもう柔らかくない。
髪の色も油も抜けて、お前が大好きだった胸もこんなにぺったんこだ。
…こら、叩かないでくれ。本当だろう?
ふふ、昔胸に甘えていたお前は可愛かったよ。可愛くて愛しくてしょうがなかった。もちろん今も可愛いぞ?
…そんなお前を夏に置いてけぼりにしてしまうのが、…覚悟していたとはいえとても辛いんだ。
………お前の方がつらいのに、すまない。年を取ると涙腺がゆるむというのは本当だな。
…おい、こんなおばあちゃんの泣き顔をまじまじ見ないでくれ。はずかしいだろう。
…………ふふふ、お前はそうやって意識せずに他人を口説くからな。年寄りの心臓に悪いよ。
…でも、うれしいな。ありがとう。
…えぇっと、何の話だったかな。
…あぁ、うん、そうだ。
…………妹紅、私はお前の夏になれたかな?」
私が返事をすると、慧音はまた泣き笑いのような顔をした。
未来の話や過去の話をする時、彼女は決まってこの表情をする。
歳をとってもその顔は可愛いくて私はたまらなく愛おしい気持ちになる。
そっと肩を引き寄せると軽い軽い慧音の体重が左半身に掛かる。
そんな顔しなくたって大丈夫だ。
言うと泣かしてしまいそうで言えないけれど。
彼女と過ごした夏があるのだから、私にはもう怖いものなんてないのだ。
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